
皆さん!元海上保安官の「元海保」です!
今回のお話は「新人潜水士の成長物語」についてのお話です!
海上保安庁だけではないと思いますが、レスキュー隊の訓練では新人隊員に対して「洗礼」のようなものがあるのです!

いじめ的なものではないですよ!
潜水士になりたての新人君に、潜水士が普段やっている訓練をそのままやらせることによって、めっちゃしんどいだろ!って体験をさせることがよくあります!
(今でもあるかどうかは分かりません)
その中でも、新人が洗礼を受ける訓練、潜水サーキットについて詳しくご紹介させていただきたいと思います。
潜水サーキット神隠し事件

潜水サーキットの訓練内容については以下の通りとなります!

管区によって訓練内容は違うかもしれません!
・船首から飛び込み
・ロープを登って船主に戻る
・船首から飛び込み
・ラダーを使って船首に戻る
・船首から飛び込み
・巡視船の周りを1周泳いでロープで船首に戻る
以上が1セットとなっており、これを3セット行う訓練となります。
賽の河原訓練

これを通称賽の河原訓練といい、延々と繰り返す訓練となっているのです。
しかも、ロープが登れないと先に進むことができないので、延々と海の上でロープから落ちては立ち泳ぎ落ちては立ち泳ぎと、誰も助けに来てくれません。

訓練が終わるまで海に浮かび続ける隊員も中にはいます。
この日の潜水サーキット訓練は、新人潜水士が入ったばかりで、どれくらいできるか、潜水班の可愛い洗礼を受けさせようということで開催されました。

まずはお手本を見せるぞ!
潜水士の先輩(私を含む)が先に船首から飛び、ロープを登る姿を見せてあげました。
当然私たちにとってもキツイ訓練であり、数回やると腕パンになってきます。
私たちが船首から飛び込み、ロープを登って船首に戻ると、新人君が船首に立っていました。
恐怖に飲み込まれる後輩


あれ?まだ飛び込んでないのか。緊張しているのかな?
そう思うこと5分。10分。一向に飛ぶ気配がない。

まさかビビってんのか?

こんなかに船首から飛び込むのひよってる奴いる~?いねぇよな!!

いや、いるーーー!!新人君足震えてる~~~!!
確かに始めてやるときはPL巡視船から飛ぶのは確かに怖いけど、先輩たちの前で飛ばないっていう空気のほうが怖いだろ!!
みんな見てるよ!支援班も白い目でこっち見てるよ!体力とかなくても根性と気合がないと潜水士続けられないよ!?
新人が神隠しに遭遇

そんな状態が続き、周りから罵詈雑言が飛び交うも飛ぶことのできない新人。
さすがに訓練にならないので、

訓練中止しますか?
と聞いてみると、潜水班長が笑いながら首を横に振りました。
そうか、これも訓練なのかな?そう思って振り返ると、潜水班長がゆっくり新人君のもとに近寄っていきました。

アドバイスでもするのかな?
そう思って見ていると、潜水班長が新人君の方に手をかけ何か耳打ちをしている。
次の瞬間、新人君の顔が恐怖に引きつり潜水班長から離れようとしていましたが、時すでに遅し。
二人は船首から急に姿を消しました。

あれ?さっきまでそこにいたよね?どこいっちゃたの?
ボチャーーーン!
何かが海に落ちる音がしました。
船首から海を覗いてみると、笑顔でOKサインしている班長とパニックになっている新人がそこにいました。
一瞬思考が停止しましたが、ハッと気が付きました。
神隠し的なものが突然発生したのかと思いきや、ただ単純に班長が一緒に飛んでいただけでした。

怖っ、というか危なっ。。。
一緒に飛ぶとか初めて見たし、超危険なんじゃないかと思いましたが、二人とも無事?に海面に到着しておりました。
新人の心が折れる

その後、無事飛び込みから進むことのできた新人君はロープ登りを実施するも、期待を裏切ることなく途中で海面に落下、再度登るも落下、落下、落下。
腕パンになり1㎜もロープを登ることができなくなりました。
そんな新人君を横目に、我々潜水班は順調に訓練をクリアしていき、全訓練が終了。
海面を覗いてみると、水死体かと見間違えてしまうほどの新人君がプカプカと浮いていました。

はやくのぼれ~
周りも長時間怒り続けて、怒る気力も元気もなくなってきた今日この頃、新人君は辛いのか、悔しいのか、悲しいのか、寂しいのか、それとも感動しているのか。
大粒の涙と嗚咽を漏らしながらロープを握っては海面に落下していました。

俺も最初はこんなんだったなぁ
しばらく放置されていましたが、訓練時間も大幅に超え、支援班も疲弊しきっており、これ以上続けると、支援班に死人が出るかもしれないので、訓練は終了となりました。
新人は岸壁に梯子を用意されましたが、疲弊しきっており、梯子すら登れない状況。
急遽岸壁への吊り上げ訓練が追加され、要救助者(新人君)を吊り上げ救助した。
悔しさをバネに成長

潜水士といえども、新人のときはこのように情けない一面もあるのですが、それを乗り越えていける隊員が、現場で活躍するプロフェッショナルに成長していきます。

ここで挫折して潜水士を辞める子もいます。
今回の新人君は、次の潜水サーキットでは全ての種目をクリアすることができるほど、日々のトレーニングに励み、努力を続けていました。
そしてこの新人君、その後特殊救難隊に配属されるという快挙を成し遂げております。
どんなに辛かったり悔しかったりしても、諦めずに努力することによって道が切り開かれていくのかもしれませんね。
最後に

皆さんも、辛いことがあっても立ち向かってみてはいかがでしょうか?
ただ、限界を超えてしまうと大変なことになりますので、引き際を間違えないようにはしましょう。

皆さんがこの話を読んで、なにかに全力になれたら嬉しく思います。


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