
海上保安庁といえば海!

海といえば船!
そう海上保安庁といえば巡視船が連想されると思います。
または海猿世代の方は潜水士が真っ先に思いつくのではないでしょうか??
現在でいえばDCUだと思いますが、そちらも海関係の話となっておりますね。

でも実は、航空機も持っているんですよ!
海上保安庁のデッチング訓練

やはり、海上保安庁といえば海のイメージが強いといいますか、海!船!以外に何かあるんですか?って思う方も多くいらっしゃるかと思います。

え?巡視船と陸上勤務以外にも何かあるんですか?

いい質問ですね!実は航空基地があるんです!!

航空基地??

はい、実はヘリコプターや飛行機も所有しているんです!

凄い!航空保安庁じゃないですか!
、、、確かに。
航空基地のレスキュー隊

海上保安庁は航空機を保有しており、各管区に航空基地が配置されております!
そこにはヘリコプターや飛行機があり、その航空機のパイロットや整備士、通信士などの海上保安官が勤務しているんです!
その中にあるレスキュー隊を、
「機動救難士」
と呼びます。
機動救難士は潜水士から構成されており、もちろん海に潜ることもできます。
またヘリコプターに乗機して、海難現場まで急行しロープで降下、要救助者を吊り上げるといった救助方法を行うレスキュー隊となっています。

このようなメンバーで構成されている航空基地ですが、航空基地では日々海難対応の為訓練に訓練を重ねております。
機動救難士の訓練においても、ヘリコプターのパイロットやホイストマン、通信士の訓練も兼ねており、航空基地内のオペレーションとも連携して、航空基地全体での訓練を行っているんです。

訓練ですか、大変そうですね
確かに訓練は大変ですが、実際の海難対応にミスなく対応できるよう日々訓練を行っております。

そこで今回はちょっと変わった訓練についてご紹介させていただきたいと思います。
デッチング


皆さん「デッチング」という言葉を聞いたことはあるでしょうか?
私は航空基地に配属されるまでその言葉を知りませんでした。
この言葉を知っている人は航空関係のお仕事をしているか、航空機大好きな方くらいかもしれません。
デッチングとはヘリコプターや飛行機に何らかのトラブルが発生し、海面に不時着水することを意味する言葉となっております。
簡単に言ってしまえば、ヘリコプターが海に落ちることを意味します。
航空基地に所属する人間(航空機に搭乗する海上保安官)はこのデッチングが発生する可能性があるので、デッチングが起きた際にどのようにするかという訓練を毎年行うことになっています。
デッチング対応訓練とはどのようなことをやるのか?内容は大体以下の通りとなります。
・航空機を模した部屋に入り、プールに着水後、沈められます。
・数秒後、シートベルトを外し、部屋から脱出
・部屋から脱出後、すぐに浮上するのではなく、離れたところまで潜水し浮上する。
このような流れの訓練を行います。

なんですぐ浮上しないんですか?

いい質問ですね!すぐ浮上してしまうと、ヘリコプターのプロペラが回っている可能性もあるので、危険がないよう離れたところで浮上するようにしています。

なるほど!納得です!
デッチング訓練対象者

私が所属していた航空基地でも年に一回デッチングの訓練が行われます。訓練対象者は航空基地に所属する
「パイロット」
「ホイストマン(整備士)」
「通信士」
となり、我々機動救難士については訓練中の警戒要員として一緒に訓練に参加します。
正直機動救難士からすると、警戒のみの訓練となり、泊まりでの出張みたいな感じでワクワクしておりました。


しかし、デッチング訓練を実施する訓練参加者の顔色は優れません。
ベテランは何度か経験しているので平気な顔をしておりますが、中堅から新人にかけては水に沈められることに恐怖感があるようで憂鬱そうでした。

大丈夫!水の中って超気持ちいですよ!

いや、潜水士みたいに変態じゃないんで怖いです
正直傷つきました。
私たちは変態じゃない!
ちょっと慣れているだけです!!
そんなことを言い合っていると、訓練の当日を迎えることになりました。
デッチングの訓練は大きなプールとモジュールが必要な為、航空基地ではなく、特殊救難隊の施設を借りて訓練を行うことになっております。
なので、航空基地から特殊救難隊の基地がある神奈川県まで移動し、訓練を行います。
神奈川県横浜防災基地に到着

到着後すぐに施設説明、注意点などの確認を行い、着替えを済ませプールに集合。
ここの訓練プールに来ると、機動救難士の新人研修を思い出し、思わず体が震えてきました。

機動救難士の新人訓練は横浜防災基地でやるんですか?

そうなんです。この話はまた今度いたします。
私がプールを見てガクガク震えていると、着替えを終わらせた訓練対象者の方々が暗い顔をして集合してきました。
確かに水に耐性のない方は嫌な訓練なんだろうなぁ、なんて他人事みたいに思っておりました。
準備体操を入念に行い、デッチング訓練の説明を実施、軽くプールで泳ぎの確認や少し潜ってみたりなどの確認事項を行っておりました。
私たち機動救難士はウエットスーツに着替え、ボンベの準備、万が一の救助機材を準備して、万全の体制を整えます。

時はきた、それだけだ
とうとうデッチング訓練が開始し、一人ずつ順番に実施していくことになった。
1番バッターはベテランのパイロットの方、お手本を若手に見せつけてやると意気揚々とモジュール内に入り、水の中に沈められていきます。
これだけ自信満々に訓練に臨んでいるのに、慌てて浮上してきたら笑っちゃうな。
なんて思いながら水中で警戒していると、なんとも落ち着いた対応、ゆっくりと水中でベルトを外し、モジュールの外へ出て、海面を確認しながらゆっくりと距離をとって浮上。
まさしくベテランの風格を若手に見せつけてくれました。
パニック・オン・ザ・プール

それからベテラン数人が実施し、全員問題なくクリアしていく中、中堅どころの通信士がこの日初のトラブルを起こしてくれました。
通信士の方は訓練前から自信がなさそうでしたので話を聞いてみると、泳ぎが苦手だということがわかりました。

大丈夫!泳ぐのなんて少しですから!

そうだよね、頑張ってみるよ!
私の励ましの言葉を胸にいざモジュールの中へはいり、プールに沈められていきました。
水中で警戒していると、通信士の目が見開いておりガンギマリしております。
これはパニックになるかな?
なんて思っていると、勝手にベルトを外そうとするも、ベルトが外れずパニック!
落ち着かせようと近づくと、パニックになってこちらにしがみ付いてきました。
まさしく要救助者となった通信士を抱えて海面に浮上しました。
通信士の訓練は失敗&中止となり、念のため別室に移し安静にしてもらいました。
まさかリアル要救助者の救助訓練になるとは、、、
最後に

続く若手の訓練も成功する人もいれば、パニックになる人などに分かれましたが、何とか全員の訓練が終了し、デッチングの訓練も終了となりました。
訓練後のデブリーフィングでは、ベテランから若手に対して実際に発生した時のことを考え、日々業務に取り組むことと、水に抵抗があるのであれば普段から水泳に通うとか自分で対策を考えるようアドバイスがあり、実りのある訓練、デブリーフィングとなりました。
訓練後の片づけを終え、若手や中堅の通信士も明るい表情になっていましたが、ベテラン潜水士の一言でまたあの暗い顔に逆戻りしました。

おい!今から飲み行くぞ!反省会だ!!


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