
元海上保安官の「元海保」です!
今回のお話は「アクアリウム」についておお話です!
巡視船の中で長く生活していると、仕事中はまだいいのですが、仕事外の休憩中など、やることがなくなっていき、かなり退屈な日々を送ることになります。

今ならのんびりブログでも書いて過ごすという選択肢がありましたが、当時はモンハンか漫画に逃げておりました。




仲の良い乗組員がいても、毎日馬鹿騒ぎするものでもないので、次第にやることがなくなります。
そんな日常を繰り返していると、船内での生活が退屈で退屈で仕方がありません。

そんな退屈な日々に一石投じた海上保安官のお話をさせていただきたいと思います。
巡視船アクアリウム

それはいつもと同じ出港日、約1週間を海の上で拘束されるため、各々休憩中にする暇つぶし用品を抱きかかえ帰船。
その中にひと際大きい荷物を持ってきている人がいました。

あの人は、クレイジー主任航海士だ!朝早いな!!
彼は独特な雰囲気を持っている主任で、保大出のエリートです。
ただ少し変わっているので、おそらく上のほうにはいけないんじゃないかなぁ?なんて思われている人でした。

何事もコミュ力が必要になる世の中なんですよねぇ


大荷物を抱え船室に消えていった主任を見送り、自分も船室に荷物を置き、着替えて出港作業を行いました。
何事もなく出港が終わり、初日の予定海域まで船を走らせます。

私はワッチではなかったので、ここで一旦休憩となります。
自室に戻る前に、先ほどの大荷物が気になったので主任の部屋に見に行ってみることにしました。

お疲れ様でーす。。。えぅ!?
主任の部屋

あの殺風景だった主任の部屋がオシャレになっている。
しかも、アクアリウムまで設置してあるではありませんか!?
これはいったいどうしたんでしょう??
彼女でもできたのか?
それとも完全に船に移住するつもりなのか??
そんな疑問が浮かんできたので、これはどうしたんですか?と尋ねたところ。

いやぁ、毎日同じ風景も飽きてきたでしょ?何とかこの毎日に彩りを加えたくてね。とりあえずアクアリウムを設置してみたよ。
とのことでした。
ただ私が疑問に思ったことがあったのが、そのアクアリウム、中に何も生物がいないんです。
藻すら入っていません。
水槽に水とオブジェが飾られているだけではありませんか。

これは絶対買い忘れたに違いない。
もしくは海のどこかで魚でも釣るつもりなのか?
それとも潜水士の私に密漁してこいとでも言うのではないだろうか??
またまた疑問が頭の中を駆け巡りましたが、聞いてみると単純に買い忘れたと落胆しており、今回の航海については設置だけで、次の航海からは何か育てようとしているらしいことが分かりました。
そして流石の主任、傾斜が10度を超えても耐えられるようにアクアリウムを固定、安全策もバッチしでした。

そこら辺は抜かりないのですが、抜けているところは抜けているクレイジー主任。
次の航海でどんな海洋生物を連れてくるのか楽しみでなりませんでした。
エビがいた

そんなこんなで約1週間の航海を終え着岸、皆家に帰っていき休みを満喫しておりました。
(停泊当直を除く)
3日後

待ちに待ったアクアリウム完成の時、こんなに船に戻るのが楽しみなのは何時ぶりのことでしょう!!
期待と興奮を胸に帰船。
そして出港作業を終え、ワッチ作業があったのでソワソワしながらワッチを終えると、私は真っ先に主任の部屋に飛び込みました。
主任!アクアリウム完成しました??

。。。あれ?なんかちっこいのがいるなぁ。これなんですか??

エビ

え?

エビだよ

なんでエビなんですか??しかも1匹。

魚嫌いなんだもん。
おいおいおいおいおいおいおいおいおいおい。
じゃあなんでアクアリウムなんだよ!
魚嫌いだったら何故アクアリウムをチョイスしたんだよ!!
確かに落ち着くけど、なんか思ってたんと違う!!

落ち着けよ、よく見てみ。エビ可愛いぞ!
心底落胆し、この休み中のドキドキを返してほしいと思う今日この頃でしたが、大きなアクアリウムの中でぼーっとしている1匹のエビをよく見ると、意外と良い。
これもこれでありかもしれない。

いや、むしろ落ち着くかもしれない。
船内の人気スポット

正直最初こそガッカリはしましたが、主任の部屋のエビは瞬く間に船の人気者となり、主任は心を休めるためにアクアリウムを設置したのに、設置してからしばらくは来客が絶えない状況でした。
そんな状況に主任も驚き、

失敗した、全然休めないし落ち着かない。
と嘆いていました。
その後、そのアクアリウムにはドジョウが追加されたり、エビと喧嘩しない生物が投入されるなど進化を続け、どんな荒波にも負けずにすくすく成長していきました。
しかし、別れは突然訪れます。
主任の異動が決まったのです。
主任はアクアリウムを放置して異動するんじゃないかと思いましたが、流石に思い入れがあったらしく、しっかりと次の赴任地に海老太郎たちを連れて行きました。

さようなら海老太郎(仮名)どんな荒波も乗り越えた君なら、どんな船でもやっていけるさ!!
最後に

正直みな、主任と別れを惜しむよりも、アクアリウムの生物たちと別れを惜しんでいた、あの夏の複雑な別れ話でした。
もしかしたら今もどこかで船上アクアリウムが開催されているかもしれません。

皆さんも海上保安官になって船上アクアリウムを探してみてはいかがでしょうか


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